上下のくちばしの形が全く違う不思議な鳥、アキアポラウ(Akiapola‘au) ハワイミツスイの一種で絶滅危惧種。 |
ハワイ島でバードウォッチング
マウナケアの南、サドルロードを車で走りました。この道は島の東側の街ヒロまで続いていて、山の周囲の丘陵に草原や岩の大地のダイナミックな光景が広がります。標高が高い場所では、道路が雲で覆われます。この道からアクセスできるマウナケアの麓の二カ所を鳥を探して歩きました。その一つが、ハカラウ鳥獣保護区。標高が低い場所では、実に、東京の4倍以上も雨が降ります。一年に6350ミリ以上!(東京は年降雨量約1500ミリ。気象庁データ)沼や谷が点在し、シダが生い茂る原生の低山帯降雨林です。標高が高い場所は降雨量が少なく、放牧のために島の外から持ち込まれた牧草が中心になっています。
ハワイの森の鳥たちのうち6種が絶滅が危惧されていますが、ハカラウにはそのうち4種が棲んでいます。黄緑色の羽がきれいなアマキヒ('amakihi)は、よく見られます。昆虫や花の蜜を食べます。赤い色の鳥は、アパパネ('apapane )とイーウィ('I'iwi)。イーウィの鳴き声は、「イーウィ!イーウィ!」と言っているように聞こえます。
イーウィ(‘I‘iwi)。赤い体と曲がった黄色いくちばしが特長。 |
鳥とダーウィン
鳥のくちばしの形状には、食べ物が大きく影響しています。ガラパゴス諸島のさまざまな形のくちばしを持つフィンチから、ダーウィンは進化論を導いたそうです。自然選択によって、周囲の自然条件に適した種が生き残ったのです。ハワイミツスイの一種のアキアポラウのくちばしは、上が大きく曲がり、下は短くまっすぐです。これは、木の枝をつついて樹皮の下にいる幼虫を取り出すためです。いくつかの樹皮にアキアポラウがつついた後が残っていました。ハカラウの周辺には、アキアポラウの食べる昆虫が好きな木を植える保護活動が行われています。
イーウィ(‘I‘iwi)の曲がったくちばしは、花の蜜を吸うのに適しています。和名はベニハワイミツスイ。赤い花の蜜を吸っているイーウィはとても美しいです。ハワイの観光資料などにもよく登場します。ハワイ諸島にたくさんいたイーウィは、蚊が媒介する病気によって数が激減してしまい、絶滅が心配されています。マウイ島とハワイ島で見ることができますが、ラナイ島では絶滅してしまい、モロカイ島とオアフ島にもほとんど生息していないそうです。
ハカラウフォレストには、29種の希少植物種が植生しています。そのうちロベリアなど12種が絶滅危惧種です。
ロベリア |
ヒトだって絶滅したくないはず
環境が変わると、新しい環境に適した生き物しか生き残って行くことはできません。人がハワイ諸島に持ち込んだものによって、ここに生まれたいくつもの固有種が絶滅し、いまも多くの種が絶滅の危機に立っています。環境を変えた原因の一つは、人が持ち込んだ外来種。生活するために家畜やペットを連れてきました。人や生き物に付いて植物の種も運ばれてきます。島の外との貿易に使う船にまぎれて、小さな生き物も入ってきました。多くの場合、いままで島にいなかった新参の生き物は、生態系のニッチ(すきま)に入り込み数を増やします。
ハワイの固有種ネネ。けっこう気が強い。 |
たとえば、ハワイ州の州鳥のネネ(ハワイガン)は、外来種によって絶滅の危機にさらされました。ネネは雁ですが、危険な生き物のいなかった環境のためか長い距離を飛ぶことは少なく、長時間を地上で過ごします。そのため、農家の天敵ネズミ(船などでやってきたと思われます)を退治するために人間が連れてきたマングースなどの格好の餌食になってしまったのです。さらに悪いことに、ネネは地上に直接卵を産むため、いとも簡単に今までいなかった動物たちに卵を食べられてしまい、一時はほぼ絶滅の状態になってしまいました。幸いなことに、その後、保護活動によって、いまでは個体数が回復してきているそうです。(とはいえ、種内の多様性が減少してしまったことによる問題があるそうです。)
マングースを捕らえるためのワナ |
農業や住宅地・商業地建設のための森林破壊や人間による捕獲(食料、ペットなどの目的)も大きな脅威です。また、間接的に気候変動も生き物たちに影響を及ぼします。雨の降り方や量が変わり、花の咲く時期や分布が変わると、そこに棲んでいた昆虫などの生息状況が変わり、さらにより大型の生き物たちも影響を受けます。いつかヒトという種も、その知恵や行動力では太刀打ちできない状況に直面することになるかもしれません。
ハワイ動物園のパネル。「最初のカヌーがやってくるまで、ハワイは鳥たちの王国だった」 |