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2017/08/19

グリーン・テキサス③ コウモリの大洞窟



久しぶりに体を動かすと、やけに動きが鈍くなる。これと同じことが文章を書くことにも当てはまるらしい。長いことブログを休んでしまったせいで、再開のきっかけをなかなかつかめなかった。

テキサスに行ったのはだいぶ前になってしまったが、もうひとつ紹介したい印象的な生き物がいる。

それは、コウモリだ。



世界最大のコウモリの乱舞


ここテキサスにあるブラッケン洞窟では、コウモリの大出現を見ることができる。

夕暮れ前に、コウモリの保護に取り組むBats Conservation Internationalのココさんと待ち合わせした。

地図を広げてメキシコオヒキコウモリ保護
プロジェクトについて説明してくれるココさん。
コウモリのデザインのピアスが素敵。
ここに住むコウモリは、メキシコオヒキコウモリ(Mexican free-tailed bats、学名 Tadarida brasiliensis)。なんと1500万もの大群で、世界最大の規模だ。夏の間、ものすごい数のコウモリたちはここで子育てをする。

まず、ココさんがブラッケン洞窟のコウモリと他の生き物との関係、ここでの保全活動に関してブリーフィングをしてくれた。コウモリは、害虫を食べ、糞を肥料としてもたらし、地域の農業に極めて重要な役割を果たしている。また、この地域の猛禽類などの野生動物にとっては、獲物ともなるという。


大洞窟からコウモリの大群が出現


洞窟の周りには蚊が多い。痒さに耐えながら辛抱強くコウモリを待っていたが、なかなか姿が見えなかった。が、少し暗くなってきた頃、ココさんが数匹が動き出したことに気づいた。「始まるわよ!」すぐに洞窟の入り口にたくさんのコウモリが現れた。




彼らはまるでプログラムされているかのように徐々に外に飛び出し連隊を作る。その先がずっと先まで伸びていく。コウモリが形作る螺旋は、形を変えながら何度も大きく回転し、洞窟に戻っていく。螺旋は、何パターンの動きを作り出せるのかを試しているかのように、何度も何度も動きを繰り返す。地上から見ると、まるでドラゴンが空を駆けていくようだ。そういえば、東南アジアの龍の伝説は、コウモリが空を飛ぶ様子から生み出されたという説が有力である。





見事な動きがずっと続いた。しかし、外には危険がある。タカやフクロウなどの猛禽類に捕まり餌になるのだ。彼らがほぼ同じ時間に同じ場所から現れることを捕食者たちは知っていて、特に洞窟から飛び出したばかりのタイミングで狙われやすい。コウモリが動きだすと、穴の上にタカが現れ、コウモリを捕らえて行った。

メキシコオヒキコウモリは重要な食物連鎖の一員

あまりにたくさんのコウモリが飛び交うため、空中で衝突して絡まり地上に落ちてくるものもいる。コウモリは特殊な音波を出して衝突しないように飛ぶことができるそうだが、ここまでの大群だと完璧に衝突を避けることはできないのか。

落下したコウモリは、死んだり、気絶したりする。そんなコウモリを狙って蛇やアライグマがやってくる。コウモリたちはこの地域の生き物にとって重要な食料となっているのだ。

空中で衝突して落下したコウモリ。
感染症の危険があるため触ってはいけない。


この大洞窟には、大学の研究者が定期的に訪れている。研究者が撮影したビデオもYou Tubeなどで公開されている。穴の先には広大な洞窟が広がり、数メートルもコウモリのフンが積み上がっていて、ニオイもなかなか。洞窟の中を歩くのはなかなか大変そうだ。

黒い宝石のニオイ 〜コウモリと南北戦争


フンといえば、ブラッケン洞窟のコウモリは、1860年代にアメリカ南北戦争で重要な役割を果たした。フンから硝石ができる。南部側に加わったテキサス州の戦士たちは、コウモリのフンを銃の火薬に利用したのである。また、1900年代には、フンは肥料として、周辺に農地を抱えるこの地域の重要な産物になる。フンは「黒い宝石」と言われたそうだ。コウモリたちが飛ぶ下に、当時のコウモリ小屋の跡を見ることができる。

コウモリのフンについて設営するボード

コウモリを守る


ココさんは、バット・コンサベーション・インターナショナルでボランティアとして環境教育活動を行っている。

この洞窟の周辺には農地が広がっているが、サンアントニオ市から近く、都市化の波が迫る。もしブラッケン洞窟がなくなってしまえば、1500万匹ものメキシコオヒキコウモリが生きていくことが難しくなる。このコウモリがもたらしてくれた農業への恩恵はなくなり、生態系も大きく変わってしまうだろう。その影響は、テキサスだけにとどまらず、冬を過ごしてきた温暖なメキシコの生態系や人々の営みにも影響を及ぼすはずだ。

土地を買うという自然保護


バット・コンサベーション・インターナショナルは、まずブラッケン洞窟を1992年に購入。次に周辺の農地を購入していった。2014年(ハロウィーンの日!)に自然保護NGOネイチャー・コンサーバンシーが洞窟につながる615ヘクタールを購入し保護活動が後押しされた。しかし、コウモリが飛んでいく方向には大きな市街地がある。まだまだ取り組むことは多い。

ココさんは、小学生や市民にコウモリの面白さや重要性について語り続けている。






ブラッケン洞窟のコウモリと生態系を守るために、Bat Conservation Internationalが10月4日にランニングイベントを行います。コウモリのダイナミックなフライトのビデオで情報をチェックしてみてください。