マダガスカルの国立公園で寝転ぶ野良犬。
現代も野良犬によって保護区にすむ生き物が脅威にさらされることがあります。
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ネアンデルタール人の骨がドイツの鉱山で見つかったのは、1856年。それから7年後の1863年に、解剖学者のスカフハンセンが、この骨が何万年も前のもので現代人とは異なるものであることを明らかにします。ちょうどダーウィンが種の起原を発表して4年後。ネアンデルタール人が人類と類人猿をつなぐ「ミッシング・リンク」ではないかと期待されました。いまでもこの説が本当だと思っている人もいるようですが、実はそうでないことがわかっています。
当時思われていたよりも、ネアンデルタール人が高い知能を持っていたこともわかっています。墓を作り、装飾品で身を飾り、演説し、ボートを作って5万年前まで地中海を航海していたのです。さらに、肉や野菜を料理し、楽器を演奏していたと思われます。
DNAの研究から、30〜40万年前にアフリカに登場したわたしたちの祖先とネアンデルタール人が違うことも明らかになっています。彼らは、現代人よりも大きな脳を持ち、優れた視覚をもっていたのです。ところが、4万年前まで人類と同時期にユーラシア大陸に暮らし、気候変動にも生き抜いてきた彼らは、急激に減少し、絶滅してしまったのです。いったい何が原因だったのか。多くの科学者が議論を続けてきました。
その理由を、著者Shipman氏は「外来種」の研究から導きました。人類のせいで絶滅した多くの種の大量絶滅(Catastrophic Extinction)。エコシステムにおいて、重要な役割を果たしている最上位捕食者が激減すると、既にいる捕食者が取り除かれたり、新たな捕食者が加わったりして、trophic cascade(高次捕食者から、その餌生物、さらにその餌となる植物へと影響が波及する減少)が起こるのです。よく知られている事例は、100年前、アメリカのイエローストーンで家畜を殺すオオカミの一掃によるものです。最上位捕食者のオオカミがいなくなることによって、エルクが増え、エルクが木の皮を食べすぎて森の環境が変わり、鳥やビーバーたちの食糧が変化します。それに寄って、鳥に寄って運ばれる種が減ってしまい、春に咲く花も減り、グリズリーベアーの食べる果実も減ってしまいました。
ヨーロッパでも現代人類の登場後にこのようなことが起こったとShipman氏は考えます。まずネアンデルタール人、そして、ケーブベア、ドール、マンモス、ウーリーサイ、ホラアナハイエナ、lesser scimitar catsなどです。これらの絶滅は、犬が人を助けることにより起こったというのです。
最初にオオカミを飼いならして犬にする変化が始まったのは、18000−14000年前と言われています。ヒトが犬を使うことで洞窟に隠れるネアンデルタール人が見つかり、追われて行きました。気候変動や人類がもたらした病気に犬が追い討ちをかけて、ネアンデルタール人が絶滅したのではないかというのがShipman氏の考えです。
では、なぜヒトは犬を飼いならすことに成功したのでしょう。
そのカギは、ヒトの目。ヒトだけが霊長類のなかで白目をコントロールできます。白目は遠くから見ることができ、イヌとのアイコンタクトに活躍します。ネアンデルタール人が、いま私たちが知る他の霊長類のように暗い色の白目を持っていたとしたら、現代人が圧倒的に有利です。類人猿やオオカミを含むほとんどのホ乳類は、人類のようにアイコンタクトを行いません。視線を追うのに長けているイヌはヒトの目の動きをおいました。そして、イヌは人類の最初の生きた道具になったのです。
むむ。面白そうではないですか。さっそくこの本を注文しようと思います。