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2014/12/22

シドニー 世界自然公園会議(WPC) ⑤ 保護区に関する議論

Parks, People, Plant

World Parks Congress(WPC)のParksとは、自然保護区を意味しています。保護区を設けることは、希少な生き物や自然の恵みを守るために、最も効果的な方法の一つとされていて、生物多様性条約の愛知ターゲットでも、2020年までに陸地の17パーセント、海域の10パーセントを保護区にすることを目標にしています。


Parks(自然保護区)に関するパネルディスカッション。

分科会に先立ち行われた3つの小全体会議のうち、保護区(Parks)の全体会議では、ロンドン動物学会のジョナサン・ベリー氏がモデレーター。保護区の維持には、トラッキングや衛星情報の活用など高い費用が課題になっていることを説明しました。基調講演で、生態系保護協会(Society for Conservation Society)のジェームズ・ワトソン氏、続くパネルディスカッションでは、さまざまな国立公園の経験が紹介され、自然を回復させるために、地域の住民の協力が不可欠であることなどが強調されました。

Peopleでは、若者を啓発し人間関係を築いていくことの重要性、都市計画において保護区考察・対応を芯におく必要性などが語られました。Planetのセッションでは、NASAの17の衛星が気温や海面、降雨などの環境条件をモニターしていることや、社会経済的価値を生み出す森と川と海の連関を表す「Satoyama(里山)」の考え方に基づいた「グリーン復興」の一環として三陸復興国立公園の設立が進められていることなどが紹介されました。


Ocean is Our Life and Future

今回、海と若者が特に注目を集めていました。海洋生物学者のシルビア・アールさんは、ダーバンでは十分海洋に関する議論がなされなかったことや、まだまだ保護区の面積が10パーセントという目的に達していないこと、また、公海での海洋保護区の重要性を指摘し、「次の10年がこれからの1万年のうちで最も重要」であると訴えました。

スピーカーの紹介。左端がシルビア・アールさん。


また、既述しましたが、開会式には太平洋のいくつかの島から大統領が参加。パラオはEEZ(排他的経済水域)すべてを海洋保護区にし、すべての商業漁業を止めることをアナウンスしました。またキリバス大統領は、EEZの11パーセントを占める同国海洋保護区で、来年1月から商業漁業を禁止することを説明。環境NGOのTNCやCI、米国政府などとの国際的な協力によって、2004年に立ち上げたミクロネシアの挑戦(Micronesia Challenge)、2006年のフェニックス諸島海洋保護区、2009年の太平洋海洋国家イニシアチブ、さらに今後も海洋保護区の規模と保護が拡大されていくことを話しました。

複数の会議がいろいろな場所で進行して行くのですが、International Institute for Sustainable Developmentが配布している瓦版(Bulletin)で、どんな議論や発表がほかで行われていたのかを知ることができました。この瓦版はオンラインで見ることができます。

12日 http://www.iisd.ca/download/pdf/sd/crsvol89num10e.pdf
13日 http://www.iisd.ca/download/pdf/sd/crsvol89num11e.pdf
14日 http://www.iisd.ca/download/pdf/sd/crsvol89num12e.pdf
15日 http://www.iisd.ca/download/pdf/sd/crsvol89num13e.pdf
17日 http://www.iisd.ca/download/pdf/sd/crsvol89num14e.pdf
18日 http://www.iisd.ca/download/pdf/sd/crsvol89num15e.pdf


いくつかのスピーチからのメモ

  • 「自然」を開発や産業のコアにおくこと。消費パターンの変更
  • 先住民族の人たちにもっと働く場を設ける必要性
  • 自然保護と開発が相容れない場合にも、対決でなく、対話すべき
  • 大企業が「よいビジネス」を行うためには何が必要か。
  • 自然資本の考え方
  • グッド・ガバナンス、強いリーダーシップ、情報が重要
  • 保護区によって、SDG(国連の持続可能な目標)達成への貢献

自然ツーリズム

バードウォッチングは成功しているツーリズムの一例。
すでに大きな観光産業になっています。
ツーリズム(観光産業)には保護区での環境保全を強化できる可能性があります。自然ツーリズム(Nature Base Tourism)を民間資本で主導し環境整備に投資すること、公共と民間のパートナーシップを作り上げること、利益をコミュニティへもたらすことなどが重要だと指摘がありました。また、コスタリカやルワンダなどで、自然ツーリズムが成功し、水源地の保全やコミュニティの収入向上に貢献していることが紹介されました。




2014/12/19

シドニー 世界自然公園会議(WPC) ④ 会議の進み方とペーパーレス化

広い会場で、さまざまなテーマの議論が進行しました。会議は、全体会議、Park(公園),People(人)、Planet(わたしたちの地球)の3つの小全体会議、8つの分科会、主要テーマのセッション、世界のリーダーたちによる対話、ワークショップがあります。また、パビリオンでは、国や団体によるブースや展示、ミニイベントが行われました。

WPCの受付。

ペーパーレス会議

これらのたくさんの会議のスケジュールを自分自身で把握するのも一苦労なのですが、今回の特長はペーパーレスです。パソコンや携帯電話やタブレットに会議のappをダウンロードして自分のスケジュールを管理することができました。いままで国際会議に行くと、大抵、受付で分厚い会議スケジュールや資料を、それらを入れるバッグと一緒に受け取っていましたが、今回はネームタグだけ。あれ?っと一瞬は物足りなく思いましたが、シンプルだし、紙を使わなくてすむし、会議中や帰りの荷物も軽くなって、とてもよかったです。

会場の周囲にWPCの旗。

ストリーム

8つの分科会(ストリーム)は、次のように分かれていて、それぞれの分科会からの報告が「シドニーの約束」に反映されていきます。

分科会1は、Reaching Conservation Goals(保全目標への到達)。適切に計画され運営されている保護区が保全に取って不可欠であることを示します。IUCN世界保護区委員会や種の保存委員会などが議論をリード。世界自然遺産などに関して議論が行われました。

分科会2は、Responding to Climate Change(気候変動への対応)。自然のシステムの回復は、気候変動への対応力をもたらします。保護区をつなげて機能を強化させることによって、水を蓄える力、人と野生生物の衝突の減少、エコシステムサービスの提供などに成功したケニアの事例などが発表されました。

分科会3は、Improving Health and Well-Being: Healthy Parks Healthy People(健康で幸せな生活)。2045年までに8割の人が都市で生活しているといわれています。人々が日常的に触れることのできる都会の自然公園がいかに大切か、都市にグリーンベルトを設けることで生物多様性と人の生活が著しく改善され、経済的な効果も高いことが報告されました。

分科会4は、Supporting Human Life(人の生活を支える)。人の暮らしの持続的な発展のために、保護区がもたらす社会経済的な恵みについて。例えば、食料、飲料や産業用の水、防災機能などです。自然を守るための資金のしくみなどについて紹介されました。

分科会5は、Reconciling Development Challenges(発展目標との融合)。経済発展と自然保護とのバランスをどう見つけるか。

分科会6は、Enhancing Diversity and Quality of Governance(多様性とガバナンスの質の強化)。

分科会7は、Respecting Indigenous and Traditional Knowledge and Culture(先住民族と伝統的な知識と文化への敬意)。伝統的な知識を持つ人々が保護区の仕事につけず、“正式”な教育を受けた人だけが職を得ることができる現状を変える必要性が指摘されました。

分科会8は、Inspiring a New Generation(若者を立ち上げさせよう)。開会式でも若者の行動の重要性が強調されていました。若者の声には、人を動かす力があります。カナダやオーストラリアなどからいくつものアプローチが紹介されました。



会議場でのランチ。。
小全体会議や上記の分科会は平行して開催されているので、関心のあるテーマに絞って参加しました。次回、わたしが参加したセッションを、いくつか紹介します。


余談ですが、会議中はあまり美味しいものに出会うことができませんでした。たとえば、水気の少ないサンドイッチに飽きて、右の写真の「ライスヌードル」を注文したのですが、一見ベトナムのフォーのようなのに、期待と大きく違いました。コンビニで買ったインスタントのカップ麺も二口目が食べられなくて。そして、食べ物や飲み物の値段がとても高くて驚きました。会場だけでなく、オーストラリア全体で高いみたいです。

2014/12/10

シドニー 世界自然公園会議(WPC) ③ どんな会議でいつから?

世界自然公園会議(WPC)のテーマ

The World Parks Congress(世界自然公園会議、略してWPC)の正式名称は、IUCN World Congress on Protected Areas(世界自然保護連合保護地域会議)。自然環境や生物多様性を守る上で重要な仕組みである保護区に関して話し合う国際会議です。

自然を守る上での資金の重要性について話すGEFのトップ、石井菜穂子氏。


IUCNは、1948年に設立された世界最大の自然保護のための国際機関で、国連総会の公式オブザーバーです。国やさまざまな国際機関、NGOなどの1200以上がメンバーになっています。日本にも事務局 (IUCN日本委員会)があり、歌手のイルカさんが親善大使をなさっています。なお、”Parks”は、訳すと「公園」ですが、ここでは、Protected Areasの意味も込めて「自然公園」と訳しています。

ここでの議論は法的な拘束力を持つものではありませんが、今後の世界の取り組みに関する提言や方向性の議論、問題認識の共有、情報収集などが行われ、議論の内容は、関連する条約や国際社会の動向、国の政策、専門家グループの活動などに大きな影響を持ちます。


1962年に始まり、10年ごとに開催

今回のシドニーでの会議は、第6回世界自然公園会議です。世界自然公園会議は、1962年に第1回がアメリカのシアトルで開催されてから、10年ごとに開催されてきました。これまでの会議の開催年は、環境に関する大きな機運があった年と重なります。

第2回は1972年に、世界初の国立公園となったイエローストーンで開催され、自然公園でのエコツーリズムや、国立公園の運営、社会的、科学的、環境的な課題について議論されました。この年は、ストックホルムで国連人間開発会議が開催された年です。また、当時は日本で自然環境や公害対策への関心が多いに高まった時期で、1971年に環境庁が設置されています。

第3回は、1982年にインドネシアのバリ。次の1992年にベネズエラのカラカスで行われた第4回の会議では、2000年までに陸地の10パーセントを保護区にするという目標が立てられました。まこの会議は、ブラジルのリオデジャネイロで世界的に環境への関心を高め、環境に関する重要な3つの国際条約やアジェンダ21が生まれた「地球サミット」の直前に開催されました。

前回から11年目の2003年に南アフリカのダーバンで開催された第5回の会議では、保護地域に関する宣言「ダーバン合意(アコード)と行動計画」、ワークショップからの32の提言、「生物多様性条約へのメッセージ」などがまとめられ、画期的な成果を上げました。

自然環境に関する他の会議との関係

また、保護地域に関する重要な決議が行われたのが2004年のマレーシアでの生物多様性条約第7回締約国会議(CBD-COP7)と2010年の日本でのCBD-COP10です。CBD-COP10で発表された愛知ターゲット11は、陸地の17%、海域の10%を保護することを目標に掲げ、今回のシドニーの会議でも重要なテーマになっていました。



ネルソン・マンデラ氏へのオマージュ

WPCでは、開会式でのネルソン・マンデラ氏へのオマージュに加え、会議の間中、いたるところで、昨年12月にこの世を去った偉大なマンデラ氏への感謝が表されていました。

開会式では、ネルソン・マンデラ氏のビデオが上映されました。


バージン・グループ創始者のリチャード・ブランソン氏は、1周忌に「The world joined together to not only mourn his death, but celebrate his incredible life. (世界中が、マンデラ氏を失ったことを悼むだけでなく、彼の類稀な人生を称えた)」と思いを述べています。

南アフリカのダーバンで開かれた第5回WPCで、マンデラ氏は先住民と地域社会が尊重され保護されるような環境保全の未来像を示しました。自然や生物多様性を守ることは、人としての権利を守ることだと、今も私たちに呼びかけてくれている気がします。






2014/12/08

シドニー 世界自然公園会議(WPC) ② 開会式

開会式が始まる。自然保護のリーダたちが集結。

WPCの会場は、2000年のシドニー・オリンピックの競技会場。十分なスペースがあり、各イベント会場への移動がしやすく配置されていました。いよいよ12日。開会式にぞくぞくと参加者が集まってきました。なかなか入場できなかったので、入り口の前に大きな人だかりができました。今回の参加人数は、6000人近くになる見込みとのことです。

先住民族アボリジニの楽器、ディジリドウの演奏。
息を継がず、循環させて音を出す難しい楽器です。

オーストラリアの先住民族のダンスパフォーマンスで開会式が始まりました。見事なアボリジニの民族音楽ディジリドウの演奏。先住民族は、自然保護の重要なステークホルダーです。

開会式をリードするのは、IUCN事務局長のジュリア(Julia Marton-Lefevre)さんとエルネスト(Ernest Enkerlin Hoeflich)さん。笑顔とユーモアで数カ国後を話しながらのフレンドリーな見事な司会。他の方が話す間もこの開会式中ずっと長時間立ったままでした。

IUCN事務局長のジュリアさんたちの司会。
参加者すべてに参加していると思わせてくれる素晴らしい司会。



IUCN会長ジャン氏は2012年にアジアからの初めて会長に着任。

IUCN会長のジャン氏(Zhang Xinsheng)は、前回のダーバンWPCから、海洋保護区の増加を含め、保護区の面積が2倍に増えたこと、保護区はカーボンを蓄え、洪水や干ばつに対して回復力を増やすなど、気候変動に取り組むために重要な役割を果たすことについて語りました。そして、すべての人に「保護区と、人々と、この地球のために」協力することを呼びかけました。

開催国オーストラリアの環境大臣のご挨拶、国連事務総長バン・キムン氏のビデオメッセージなど、多くの方からのご挨拶が続きました。グレートバリアリーフの中からのメッセージも生中継で届きました。


マンデラ氏へのオマージュと先住民族への敬意

ステージのスクリーンはまるで巨大コンピューターの画面。会議ロゴが映っていたかと思うと、話し手の顔のアップ。次には自然の風景。効果的に使われていました。いまは、看板を作ったり巨大TVモニターを設置したりしなくていいから便利です。

ネルソン・マンデラ氏のメッセージ。教育は自然を守るためにもとても重要。


このスクリーンに次にアップになったのは、11年前のダーバンで強烈なカリスマ性で人々を魅了したマンデラ氏。将来のために自然を守るために教育が重要であることを強調した2003年のスピーチのビデオが流れました。参加者たちはマンデラさんの偉業に敬意を表し大きな拍手。ひ孫のルブヨ・マンデラさんが壇上に登場し、若者の活動の重要性をアピールしました。

また、キリバス、パラオ、クックアイランドからはそれぞれ大統領が参加。気候変動の影響を大きく受けている国の指導者たちは、自然保護の取り組みで世界をリードして行く思いをスピーチしました。まさに前日アメリカと中国が気候変動問題で合意したことを歓迎し、島の人々の伝統的な生きる知恵、自然資源を回復できる範囲でだけ利用する“The Bull”という方法があり、国際社会にもそのやりかたで、自然資源を守るようよびかけるために2004年に立ち上げたミクロネシア・チャレンジを紹介。そして、「自分たちだけではできない」と国際社会の協力を呼びかけました。

南太平洋からシドニーまで航海してきたカヌーが、前日に港に到着!
メンバーが島のダンスを踊ります。

実は、この会議に向けて、南太平洋の島から航海してきた一群が、前日にシドニーハーバーに到着していました。世界最年少で世界一周の航海を成し遂げたジェシカ・ワトソンさんがエルネスト氏と一緒にこれを紹介し、会議の開催を宣言。航海してきたメンバーが登壇。お祝いのダンスが披露され、会場はスタンディングで喝采を送りました。

次は、このWPC(世界自然公園会議)とはそもそもどんなものなのか、について紹介します。



2014/12/01

シドニーで 世界自然公園会議 ”The World Parks Congress”

11月12日から19日まで、オーストラリアのシドニーで「The World Parks Congress(世界自然公園会議)」が開催されました。

「The Promise of Sydney(シドニーの約束)」の発表。


当初見込まれ得ていた5000人を大きく超え、170を超える国から、政府や国際機関の代表、NGOや企業の関係者、さらに国家元首など6000人以上が参加。さまざまな規模や多様な設立主体による世界の“公園”を通して、どのように地球上の自然、わたしたちの命と生活を支えてくれる生物多様性を守ることができるのか。新たな解決法を求めた議論の成果が「The Promise of Sydney」としてまとめられ、次の10年間の行動への方向性を導きだしました。

次回はこの会議について詳しく報告します。


WPCのウェブサイト http://worldparkscongress.org 




2014/11/01

ハワイ島③ 火山の島の不思議な鳥たち

ハワイ島の溶岩の台地の上に広がる森で、不思議な鳥たちに出会うことができました。


上下のくちばしの形が全く違う不思議な鳥、アキアポラウ(Akiapola‘au)
ハワイミツスイの一種で絶滅危惧種。


ハワイ島でバードウォッチング

マウナケアの南、サドルロードを車で走りました。この道は島の東側の街ヒロまで続いていて、山の周囲の丘陵に草原や岩の大地のダイナミックな光景が広がります。標高が高い場所では、道路が雲で覆われます。この道からアクセスできるマウナケアの麓の二カ所を鳥を探して歩きました。

その一つが、ハカラウ鳥獣保護区。標高が低い場所では、実に、東京の4倍以上も雨が降ります。一年に6350ミリ以上!(東京は年降雨量約1500ミリ。気象庁データ)沼や谷が点在し、シダが生い茂る原生の低山帯降雨林です。標高が高い場所は降雨量が少なく、放牧のために島の外から持ち込まれた牧草が中心になっています。

ハワイの森の鳥たちのうち6種が絶滅が危惧されていますが、ハカラウにはそのうち4種が棲んでいます。黄緑色の羽がきれいなアマキヒ('amakihi)は、よく見られます。昆虫や花の蜜を食べます。赤い色の鳥は、アパパネ('apapane )とイーウィ('I'iwi)。イーウィの鳴き声は、「イーウィ!イーウィ!」と言っているように聞こえます。


イーウィ(‘I‘iwi)。赤い体と曲がった黄色いくちばしが特長。

鳥とダーウィン

鳥のくちばしの形状には、食べ物が大きく影響しています。ガラパゴス諸島のさまざまな形のくちばしを持つフィンチから、ダーウィンは進化論を導いたそうです。自然選択によって、周囲の自然条件に適した種が生き残ったのです。

ハワイミツスイの一種のアキアポラウのくちばしは、上が大きく曲がり、下は短くまっすぐです。これは、木の枝をつついて樹皮の下にいる幼虫を取り出すためです。いくつかの樹皮にアキアポラウがつついた後が残っていました。ハカラウの周辺には、アキアポラウの食べる昆虫が好きな木を植える保護活動が行われています。



イーウィ(‘I‘iwi)の曲がったくちばしは、花の蜜を吸うのに適しています。和名はベニハワイミツスイ。赤い花の蜜を吸っているイーウィはとても美しいです。ハワイの観光資料などにもよく登場します。ハワイ諸島にたくさんいたイーウィは、蚊が媒介する病気によって数が激減してしまい、絶滅が心配されています。マウイ島とハワイ島で見ることができますが、ラナイ島では絶滅してしまい、モロカイ島とオアフ島にもほとんど生息していないそうです。

ハカラウフォレストには、29種の希少植物種が植生しています。そのうちロベリアなど12種が絶滅危惧種です。


ロベリア


ヒトだって絶滅したくないはず

環境が変わると、新しい環境に適した生き物しか生き残って行くことはできません。人がハワイ諸島に持ち込んだものによって、ここに生まれたいくつもの固有種が絶滅し、いまも多くの種が絶滅の危機に立っています。

環境を変えた原因の一つは、人が持ち込んだ外来種。生活するために家畜やペットを連れてきました。人や生き物に付いて植物の種も運ばれてきます。島の外との貿易に使う船にまぎれて、小さな生き物も入ってきました。多くの場合、いままで島にいなかった新参の生き物は、生態系のニッチ(すきま)に入り込み数を増やします。

ハワイの固有種ネネ。けっこう気が強い。

たとえば、ハワイ州の州鳥のネネ(ハワイガン)は、外来種によって絶滅の危機にさらされました。ネネは雁ですが、危険な生き物のいなかった環境のためか長い距離を飛ぶことは少なく、長時間を地上で過ごします。そのため、農家の天敵ネズミ(船などでやってきたと思われます)を退治するために人間が連れてきたマングースなどの格好の餌食になってしまったのです。さらに悪いことに、ネネは地上に直接卵を産むため、いとも簡単に今までいなかった動物たちに卵を食べられてしまい、一時はほぼ絶滅の状態になってしまいました。幸いなことに、その後、保護活動によって、いまでは個体数が回復してきているそうです。(とはいえ、種内の多様性が減少してしまったことによる問題があるそうです。)

マングースを捕らえるためのワナ


農業や住宅地・商業地建設のための森林破壊や人間による捕獲(食料、ペットなどの目的)も大きな脅威です。また、間接的に気候変動も生き物たちに影響を及ぼします。雨の降り方や量が変わり、花の咲く時期や分布が変わると、そこに棲んでいた昆虫などの生息状況が変わり、さらにより大型の生き物たちも影響を受けます。いつかヒトという種も、その知恵や行動力では太刀打ちできない状況に直面することになるかもしれません。



ハワイ動物園のパネル。「最初のカヌーがやってくるまで、ハワイは鳥たちの王国だった」

2014/10/28

ハワイ島② 生きている火山

つい最近もハワイ島のキラウエア火山の活動が激しくなり、溶岩流が町まで迫り、避難勧告の範囲が広がっているようです。

キラウェア火山の溶岩流から煙が立ち上る

島は動いている

ハワイ諸島は、火山活動によってできた島々です。マグマが噴出する上に、火山が新しい島を形成します。プレートは北西方向に移動しているので、南東にあるハワイ島(ビッグアイランド)が一番新しい島なのです。

ハワイ島は約50万年前に噴火によって誕生。熱い溶岩流が流れる大地には、最初は熱に強いバクテリアが登場。目で見ることのできる生き物は時間を経てからやってきました。新しい火山島にまずやってきたのは、風に運ばれてくる植物の種と、海の生き物、そして空を飛んでくる鳥たちです。シダや地衣類などが土を作り、そこに植物が根を下ろします。ハワイ島はまだ新しい島なので、そのような生物の進化を見るのに適しているそうです。

澄んだ空気のなかでみる満点の星空

キラウエア火山よりも前にでき今は噴火をしていないのが、中央北部にあるマウナケア火山です。マウナケアはおよそ4000メートルと富士山よりも高く、空気が澄んでいるので美しい星空が見られます。NASA、ハワイ大学、イギリス、日本など、世界の研究機関の天体観測施設があります。望遠鏡リストはこちら。一般の人たちも参加できる星空観測ツアーが人気のようです。

溶岩の上にできた森へバードウォッチングに。
白い天体観測施設が遠く山頂に小さく見えます

マウナケア火山から生まれた溶岩台地の上に広がる森に、不思議な鳥たちを探しに出かけます。


2014/10/20

ハワイ島① 火山が生み出した壮大な自然

「ハワイへ」というと、オアフ島のリゾートエリアが真っ先に思い浮かぶという人も多いのでは。実は、わたしもその一人です。暖かい穏やかな気候ときれいな海。でも、それだけじゃないことを今回の旅で体感してきました。

ハワイのホテルでは、ゲストにレイ(首飾り)をプレゼントしてくれることも。

わたしが訪れたのは、ハワイ島。南太平洋の火山列島の最南端で、いまも活発に火山が活動し、地球の息吹を感じられる場所です。ハワイ諸島のなかで最も大きなこの島は、ビッグアイランドと呼ばれています。

噴煙を上げるキラウエア火山。
今年9月には溶岩流のために住民に避難勧告が出されました。
火山の火が森を焼き続けています。森は徐々に再生します。

行きの飛行機の中では、ちょうどハワイを舞台にした「Decendant」が上映されていて、ストーリーの背景には、自然とすごく近い距離で生きている人たちの生活や物事の捉え方が、さりげなく描かれていました。飛行機がコナの空港への着陸態勢に入ると、海岸線まで黒い溶岩流の後が広がる光景が。活発な火山活動がありながらも、このコナや島の反対側にあるヒロなどの町を中心に、オアフ島に次いで多くの人が暮らしています。

ハワイ島の主要な産業は、観光、コーヒー栽培、放牧など。高台には、コーヒー農園がたくさんあります。そのうちコナのUCCの農園にお邪魔しました。若い日本人女性たちが、コーヒーの焙煎体験を楽しんでいました。ここでは、農園の見学やコーヒーの試飲・購入などもできます。コーヒーの白い花が一斉に咲く時期はとても美しく、木の上に雪が降ったように見えるため、コナ・スノーと呼ばれているそうです。開花は、たった3日間くらいだけなので、見られたらラッキーですね。

コナにあるUCCのコーヒー農園。七面鳥がお散歩中。

UCC農園では、コーヒービーンズ・チョコレートを買いました。
これはホワイト&スイート。美味しいです♡

火山の周囲には、放牧地が広がっていました。

火山の周辺の草原に、ウシやヤギが放牧されています。


ハワイ島観光の主役は、火山と海です。火山の上を飛ぶヘリツアー。ダイナミックな波を目指すサーファー。ビーチを楽しむ人たち。クジラたちに出会うネイチャーツアーも大人気です。

ハワイ島の海岸線は荒々しい形状

ヘリコプターから見たクジラの親子。

「島」は、周囲から離れているという条件から、特有に進化した生態系を持つことが多いものです。特に、ハワイ島は火山活動で形成された新しい島で、大陸から大きく隔たれているため、独特な生き物たちを見ることができます。ハワイ島の景色は「ダイナミック」ですが、実は、生き物たちは繊細なバランスの中に生きています。今回の旅では、ユニークな鳥たちに出会うことができました。詳しくは次回。


自然系のレストランも多い。おしゃれに盛りつけられた枝豆。
最近「Edamame」は英語として使われるようになってきたようです。

2014/09/25

国連気候変動サミットでディカプリオ氏演説。「個人レベルを超えた大きな行動を!」

ニュースで「気候変動」という言葉を聞いたり見たりしない日はないくらい、日常の中で気候変動を意識することが増えてきました。

異常な大雨、干ばつが世界の各地で多発しています。外国へ旅行するときにも、旅行ガイドに書かれていた雨季と乾季は、もう当てになりません。カリフォルニアでは、ここ3年以上も強い乾燥が続き、山火事が頻発しています。今年は、最悪の山火事の年と言われた昨年を上回り、年間にわたり山火事が起き、その規模も大きくなっています。

カリフォルニアの水瓶の一つイザベル湖。
渇水のため、満水時の1割程度しか水がない。

気候変動は植生に影響を及ぼし、それらを食べる生き物たちの行動も変えます。自然から直接材料を手に入れ、野生生物を食料としてきた人々も生活パターンを変えなくてはなりません。生活のための水を手に入れられる場所も時期も、その量も変わってきているはずです。

今週、ニューヨークで国連気候変動サミットが開催されました。これに先立ち、さまざまな呼びかけが行われ、日曜日には40万人を超える人々がニューヨークで気候変動への行動を呼びかけ行進しました。オバマ大統領の呼びかけは力強いものでしたが、同じタイミングでISに関する声明も繰り返し放送されたので、そちらの印象が強くなってしまった感じも。

このたび国連の平和メッセンジャーに選ばれたレオナルド・ディカプリオ氏の演説は、とても素晴らしいものでした。

レオナルド・ディカプリオ氏 国連気候サミット演説
国連のビデオ画像より

特に心に響いたのは、「もう個人レベルでハイブリッドカーを買うとかいうことではない。国家レベルで大規模な行動を起こすべきだ」というメッセージです。自分自身の環境への配慮を体現してきた彼の言葉だから、なおのこと強く伝わりました。

気候変動がエコシステムを壊してしまえば、私たち自身の生存も危ない。それは明白で、アメリカの軍ですら知っているのです。「気候変動は最大の脅威だ」と。

そして、市民は、国家や企業を動かすことができます。今、行動しなければ。
"You Can Make History"!



ディカプリオ氏の演説のビデオはこちら。

日本語訳はここから読めます。



2014/09/11

ロンドン大英博物館で出会った和風のサルたち

旅先で、動物園や博物館に行くのが楽しみの一つです。

雨上がりの大英博物館入り口

お気に入りの博物館の一つが、ロンドンの大英博物館です。常設展なら入場料が寄付だけ(金額は自分で決められます。寄付しない人もいるみたいです)でOKというお手軽さもあって、数時間でも空いた時間が作れれば、バスでRussell Streetに向かいます。

メトロ網も充実しているロンドンですが、歴史のあるバスもロンドン市内の移動にすこぶる便利です。赤い二階建てのバスは乗るのも楽しく、料金も安いし安全。狭い道を鮮やかに運転するドライバーのテクニックは感動ものです。

お猿の根付け。お釈迦様の手から逃げられない孫悟空

さて、大英博物館のなかに、三菱が寄付している日本などの美術を中心に展示するコーナーがあるのですが、その入り口に根付けがずらっと並んでいました。実用品でもある根付けは、限られた大きさと重さのなかで、面白みと美しさを表現する芸術でもあります。

そして、サルのすむ国、中国や日本など東アジアのものだけあって、サルをモチーフにした根付けもけっこうあるのです。孫悟空などの話や、十二支の一つでもあり、アジアの人々にとって、サルはずっと身近な存在だったのだと思います。

かなりリアルなサル
根付けのひとつひとつは手のうちに収まる小ささ。

この日、急遽捻出した時間での観覧。二時間で急いで展示を見て、空港に向かいました。でも短い時間でも、歴史を感じるものや素晴らしい芸術に触れて、心の栄養をたくさん吸収できました。






2014/09/08

秋のニューヨーク・メトロポリタン美術館でサルに遭遇。


ニューヨークのメトロポリタン美術館
ニューヨークには見所がたくさんありますが、なかでもおすすめはメトロポリタン美術館です。広大なセントラルパークを背景に、高級ブティックが建ち並ぶ通りにごく近い、とても便利なロケーションです。

メトロポリタン美術館のウェブサイト

広い館内はとにかく見応えがあります。常設の展示のほかに、いくつもの特別展が行われていて、一日ですべて見るのは難しいので、時間が限られている場合は、事前にネットで調べて、お目当ての展示を決めて行くとよいと思います。

この日は半日しかなく、アフリカ・オセアニアなどのトライバルアート・コレクションを中心に見学。素晴らしい展示でした。


その後、ヨーロッパの近代美術を見ていたのですが、サルが登場している絵画を見つけました。1683年のMelchoior d'Hondecoeter。絵のタイトルは「Peacock(孔雀)」です。画面に大きく描かれた孔雀の下に、サルとメロンが。当時のヨーロッパにはサルは生息していなかったので、ペットとして外国から連れてこられたのだと思われます。

ヨーロッパにペットとして連れてこられたサルが描かれていました。

また、Rafael(1483-1520)がデザインして、後にイタリアで1635年にタペストリーとして制作された「サルの赤ん坊争奪を止めようとする子どもたち」の図。バチカンの注文のようです。

サルが赤ん坊をさらおうとしているのを止めようとする二人の子どもたちのタペストリー。

大航海時代の後、近代は、ヨーロッパの人たちが植民地からのいろいろな動植物を知った時期です。芸術を見ながら、当時の人々が珍しい生き物に対して持っていたイメージや、過去のエキゾチックな生き物のペット取引などを推測するのも、美術館の面白い楽しみ方かも知れません。(もちろん現代のペット取引は、ワシントン条約などの国際条約や生き物の生息国の法律などのルールに則って行われなければならないのですが)


青空のNY。




2014/08/06

自然と動物好きにサンディエゴ!

サンディエゴは、アメリカ、カリフォルニア州南部の街です。メキシコ国境に近い西海岸の陽気なこの街は、自然や動物が好きな人にかなりおススメです。


サンディエゴから海岸線を少し北上すると、海の生き物たちに出会えます。

太平洋に面している海岸には、たくさんのアザラシやオットセイ、ウミウやペリカンなどの海鳥たちがやってきます。海沿いの道路や公園のすぐそばにいるので、間近で出会うことができるので、まるで隣人、といった感じです。

ウなど海鳥を見ながら、海岸をジョギング。
砂の上で寝転がるアザラシ。リラックスしています。


さて、動物好きに見逃せないのが、サンディエゴ動物園と水族館です。

サンディエゴ動物園の広大なパーキングに車を駐車。どこにとめたか覚えておかないと、後で探すのが大変なので要注意。入り口では、まず巨大な植木のゾウが出迎えてくれます。

サンディエゴ動物園の入り口には巨大な植木のゾウが。

サンディエゴ動物園のパンダ
アノア。スラウェシに生息する希少なシカの仲間。

広大な敷地をうまくデザインした動物展示は素晴らしいものです。さらに、ワークショップやセミナーも充実していて、子どもたちから大人まで、専門家による保護の取り組みなどの話を聞くことができます。

一歩きしたら、ランチにしましょう。アメリカで一番美味しいのはハンバーガーではないかしら、と思ってしまうくらい、美味しいです。お値段もかなりリーズナブル。


レストランのハンバーガーはほぼ美味しい。ほんとに美味しい。
メキシコ国境が近いせいか、メキシコ料理も充実してます。


動物園の近くには、サファリパークもあります。こちらでも動物園とはひと味違う充実した動物展示を見ることができます。子どもたちは思いっきり遊べます。上空から、アフリカのサバンナのエリアなどのサファリパーク内を見ることができる気球も楽しいです。

サンディエゴ・サファリパーク。アクティビティがたくさん。

気球からサファリパーク内を見るのも楽しい。

海に面しているこの街では、水族館も見応えがあります。カリフォルニアの海には、ケルプがたくさん生えていて、そのケルプが育む豊かな海洋生態系が紹介されています。タツノオトシゴの展示は他に見ないものでした。気候変動などの地球科学系の説明も充実しています。

サンディエゴ水族館の入り口前には巨大なクジラのオブジェ。
SCRIPPSは国の研究機関。
海洋や気候変動などに関する世界第一線の研究を行っています。

一日しっかり遊んだら、夕方は海岸を歩いてみませんか。太平洋に沈む夕陽が雄大ながらも繊細な光で辺りを包んでくれます。日本では、太平洋では朝日を見ることができますが、サンディエゴでは、夕陽なのです。

夕暮れ時がきれい。海岸そばには、
シーフードが自慢の素敵なレストランがたくさんあります。